汀の人文史

:水際の土地の居住に関する社会・文化・技術・景観の研究


〔汀〕 み/ ぎ/ わ
1.揺動する境界
〔語義1〕波打ち際、水際。
2.水際の平地
〔語義2〕「たいらか」の意。
3.うみやまのあいだ
〔語義3〕海・川・湖などの水と陸地とが接するところ。


 本テーマは、一度つくりあげられてしまえば比較的安定してみえ確固としたものにも思える水辺と都市との関係が、実は常にその足もとに孕んでいる、存立または存続の危機、つまりは、水へ帰することや水面の条件が大幅に変化することによる、場所の絶え間ない動的な変化の履歴とそのうえに立脚するものである集住体との関係に、積極的に向き合おうとするものである。
そのために、水と陸地が接する「揺動する境界」であるところの「汀」(みぎわ)という概念により、「汀」=水際に属する場所を沿海諸地域をはじめとする各地の集住体の姿とその歴史のなかに読み取り、その“境界”上でこそ繰り広げられてきたさまざまな人文史の足跡を明らかにしようとするものである〔1 揺動する境界〕。
 いっぽう「汀」とは「水際の平地」という語義にもみるとおり、人間の居住と営みが繰り広げられる豊かな地盤面を担保する、平らかな領域でもある〔2 水際の平地〕。海と山とのあいだにとりわけ密集して住むという居住の形態と歴史を有する日本において、汀における人びとの営みやふるまい、集落や都市の形成について考えることは、日本に固有の住み方と住まい方の観念、そしてその場所に生じてきた課題群やあるいは可能性にかんする、さまざまな技術や哲学を浮かび上がらせるはずだ〔3 うみやまのあいだ〕。
 以上本プロジェクトでは、常に微動・揺動している「場所」の性質にかかわる諸関心と問題群について、一見安定的にみえるが長期的には不安定な拠り所=地盤面に依拠している集住体や国土の形成・展開・維持、消滅や再生の様相を、場所の動的な相貌から照らし出すための「汀」というキーワードから考察する。
2011年7月
(本研究の一部は、2012年度採択の科学研究費補助金助成課題(若手研究B)「氾濫原-沼-潟における水際の居住と『社会的技術』に関する史的研究」の内容を含む)

関連項目

「生環境」の歴史から、土地とのかかわりを考える


上妻世海+松田法子「『生環境』の歴史から、土地とのかかわりを考える」(対談),『遅いインターネット』,PLANETS,2020/全文:/https:/slowinternet.jp/article/roundforming01/

「地」に根ざした社会をつくりだすための知恵


上妻世海+松田法子「『地』に根ざした社会をつくりだすための知恵」(対談),『遅いインターネット』,PLANETS,2020/全文:/https:/slowinternet.jp/article/roundforming02/

神話地図へのトラヴェローグ


松田法子「神話地図へのトラヴェローグ」,『ユリイカ』Vol.52-7,青土社,2020 /構成/ /地図/肉体/神話/ /アマノハシタテ/  天橋立と記紀神話/  元伊勢籠神社/  筒川・水江浦島子/ /セーシェルの島々/  セーシェルの写真師・大橋申廣/  セーシェルの「歴史」/  ココ・ド・メール/  セーシェルの地図 / /うつろう汀/  天橋立の近代海図/  汀線はいつも同じではない/  生きている土地、漁師たちの海図/ /ゴンドワナのかけら/  ゴンドワナ大陸とセーシェル/  世界神話の二類型/  ローラシア型神話とゴンドワナ型神話/  失われる釣針/  チャイニーズ・ゴードンのエデンー西欧近代の夢見/青土社||ユリイカ:ユリイカ2020年6月号 特集=地図の世界/

集落の色見本帳


解説/土地の〈いま〉の光景を記録・記憶するひとつの方法として、家の「色」に注目した記録を行い、作品化します。/このプロジェクトは、浦ごとに個性的な生活文化と生活空間が展開してきた紀伊半島の海付集落から始まります。/「色見本帳」として持ち運び可能な風景のかけらは、集落の〈いま〉をさまざまな土地に伝えます。/民家がまとう「色」は、それぞれに家の歴史と時間を吸いこんでいます。/それらの「色」は、塗り立ての輝く色とは、もう同じではありません。/海風や雨、太陽にさらされて、変化した色、いろ。/住み手や職人は、どんな気持ちでその色を選んだのでしょうか。/集落の路地を行き交う日常のまなざしのなかにちらちらと華やぎ、移ろう色たち。/そういう小さな意味と時間を宿した色を集めます。/作品化によって、見慣れた日常風景の価値への気づきや、さらなる記録・活動をひろげるきっかけになることも目指しています。/制作概要/

円山町の襞を歩く

渋谷の秘密 -12の視点で読み解く


松田法子「円山町の襞を歩く」(『渋谷の秘密ー12の視点で読み解く』パルコ出版,2019)/構成/ /はじめに 都市のケモノミチ/ /1 渋谷芸妓たち/小糸さんと鈴子さん/芸者町のはじまりといま/ /2 よい水の湧くところ/土地の先行核/神泉水、ヒメガイ/弘法湯のなりたち/ /3 神泉谷を貫く道/山に続く道/裏渋谷通りの正体/駒場野の道/ /4 円山町ができるまで/遊所のありか/陸軍と渋谷/土地利用からみる変遷/建物からみる変遷/土地所有者からみる変遷/ /5 台地からみる渋谷/地形からみる芸者階段/台地の面的開発/面から読み取る渋谷の都市史/大地を分節する水、棲み着くことの足がかり/ /おわりに 円山町、土地の生態史/

TRANS-


概要/アート・プロジェクト:TRANS-とは、2019年秋に神戸で開催されるアート・プロジェクトです。/神戸がグローカル・シティの先鋒となるべく、現代アートを切り口に何かを“飛び越え、あちら側へ向かう”ための試みです。/世界各地で開催が相次ぐ芸術祭とは一線を画し、参加作家を2名と少数に絞ります。/会期中は神戸の3つのエリアを舞台に、美術作品や野外劇など様々な仕掛けが出現します。/ *「TRANS」とは、「越えて」「向こう側へ」という意味を含む接頭語。/ **「TRANS」から派生した単語に「TRANSFORM(変容)」「TRANSPORT(輸送)」などがある。〔TRANS-〕/会期|2019年9月14日(土)-11月10日(日)/主催|TRANS-KOBE実行委員会/神戸市/特別協力|兵庫県/ディレクター|林寿美/開催エリア|新開地、兵庫港、新長田/アーティストトーク/スペシャルトーク/■

宮津 ―海、音色、声、記憶

京都府立大学地域貢献型特別研究〔ACTR〕2017年度成果報告会


日時:2017年10月28日(土)18:30-20:30/会場:カフェ・ドゥ・パン/ 〒626-0001京都府宮津市文珠468(智恩寺山門横海側)/定員:50名(申し込み不要/当日先着順)会費:無料/開催主旨/昨年度宮津では,ケラーマンが1911年にベルリンで刊行した書籍『SassayoYassa』(さっさよやっさ,日本の踊り)の新訳が発表されました.これは宮津の「茶屋町」を舞台とする,さまざまな音と陰影に富んだ書物です. 今年度わたしたちは,日本についてケラーマンが書き記したもうひとつの作品『日本散策記』の宮津関係箇所のはじめての全訳を進めています.今回その中から,「日本の小さな町(宮津)」「暮らし」「祭」など,100年前の宮津の日常や祭りの活気を記した箇所を抜粋して朗読し,はじめてご紹介します.翻訳者は林立騎氏,朗読は管啓次郎氏です./当日上映予定の映像では1世紀の時空を超えてケラーマ

富山県氷見市 新朝日山公園の設計にかかる都市史・地域史研究とワークショップ

2014-


 富山県氷見市の中心市街地に伸びる山脈の先端、朝日山。山頂付近にある7haの未利用地を約10年かけて公園に整備するプロジェクト。施設設計・ランドスケープデザインの全プロセスは市民ワークショップを経て決定されます。同時に、氷見の町や地域をよく知り、新しい公園の使い方・運営について考えるための地域史ワークショップとコミュニティデザインワークショップを連続的に開催していきます。/2016年度成果報告/成果報告ダウンロード(22.1MB)/2015年度成果報告/2014年度成果報告/成果報告ダウンロード(17.9MB)/成果報告ダウンロード(31.3MB)/

記録映像「さっさよやっさを探して」

2016年


監督:古木洋平/翻訳:林立騎/声 :管啓次郎/製作:松田法子/2016年/京都府宮津市/HD/28分/京都府立大学ACTR/概要/明治末に丹後宮津を訪れたドイツ人作家、ベルンハルト・ケラーマン。彼が残した『SassayoYassa.JapanischeTänze』(さっさよやっさ、日本の踊り/1911年)を導きに、その舞台となった“茶屋町”の痕跡を追う。天橋立をのぞむ廓かつ芸者町だったある町の現在、芸能の古今、最後の新浜芸妓たち。茶屋町を生活史の視点からも捉えなおし、そこに生きた人々の聲を聞く。/これまでの上映情報/2017.04.27 於 京都府立京都学・歴彩館グランドオープンイベント(国際京都学・歴彩館/京都市)/2017.02.19 於 シンポジウム「宮津新浜の芸能文化と社会・人・まち」(みやづ歴史の館/宮津市)〔鑑賞者約120名〕/2016.11.19 於京都府立大学桜楓講座(京都

「宮津新浜の芸能文化と社会・人・まち」

京都府立大学地域貢献型特別研究〔ACTR〕2016年度成果報告会


「宮津新浜の芸能文化と社会・人・まち」/京都府立大学地域貢献型特別研究〔ACTR〕2016年度成果報告会/日時:2017年2月19日(日)13:30-16:30/会場:京都府宮津市みやづ歴史の館文化ホール(286席)/開催主旨/今から100年と少し前、ベルンハルト・ケラーマンというドイツ人作家と、カール・ヴァルザーというスイス人画家が宮津に滞在していました。ふたりは特に宮津の「茶屋町」に深い印象をもち、茶屋町に生きる人々の様子や豊かな芸能文化についての記事と絵を『SassayoYassa.JapanischeTänze』(さっさよやっさ、日本の踊り/1911年)という美しい本に仕立て、ベルリンで出版します。/現代の宮津にはないそれらの茶屋町や茶屋とは、一体どんな所だったのでしょうか。また、茶屋町に生きた人びとや芸能文化は、その後どうなったのでしょうか。/失われた茶屋町の姿や芸能の痕跡を追っ

名所の遊所 天橋立と宮津新浜

京都府立大学 桜楓講座


開催日/:/2016年11月19日(土)10:00-12:00/会場/:/京都府立大学 稲盛記念会館1階 102講義室 (定員200名)/報告/:/松田法子「名所の遊所 天橋立と宮津新浜」/--名所・天橋立の写真絵はがきには、橋立を背景にする大勢の舞子・芸子が登場します。彼女たちは京都の芸舞子だったのでしょうか?実はそうではなく、そのほとんどは天橋立からほど近い宮津の海沿いに存在した遊所「新浜」の芸舞子だったと思われます。/諸国廻船の寄港地としても知られる港町宮津。その遊所である新浜は、どのような成り立ちや特徴をもつ場所だったのでしょうか。明治期の新浜に滞在した外国人作家が詳しく書き残した町や人々の情景なども手がかりにしながら、埋もれた「芸」の記憶や証言を拾い集め、宮津新浜の歴史を考えます。/(本報告は、京都府立大学地域貢献型特別研究〔ACTR〕2016年度採択研究/「宮津市新浜地区におけ

紀伊半島の漁業-港湾集落を対象とする社会・空間史アーカイブの構築

2016-


 紀伊半島には個性豊かな数多くの漁業集落が展開しています。和歌山市から鳥羽市までの浦々を網羅的に訪ね、地形・地質・道・街区・地割りパタンなどの地物的・空間的諸要素、生業とその推移、また近世以降の災害・復興歴等も含む記録・分析を行い、総合的な集落史アーカイブの構築を目指すプロジェクトです。/

宮津新浜の芸能文化と都市史

2016-


 かつて芸者や遊女のいる遊所として栄えた京都府宮津市の新浜地区。天橋立で有名な宮津はまた、北前船や丹後縮緬で隆盛した湊町であり、商業の地でもありました。その汀に展開していた遊所の諸相を、建築・街区、遊所の社会構造、芸能、文学、古写真などを手がかりに探っていきます。/関連ページ/「名所の遊所天橋立と宮津新浜」京都府立大学桜楓講座/

2014年度ミニシンポジウム

続・保養地としての天橋立考:保養・海水浴・観光の歴史から考える天橋立


開催日:2015年1月12日〔月・祝〕14:00-16:00/会場:清輝楼3階大広間(宮津市魚屋町)/ポスターダウンロード/報告/松田法子・安達伶奈「海水浴場の全国的展開と天橋立」/宮下遙「近代橋立の名所をめぐる行為とメディア」/パネルディスカッション「保養地と歴史的遺産をめぐる国際比較」/阿部拓児・井上直樹・岸本恵実・松田法子/司会:上杉和央/共催/宮津市教育委員会/報道/

保養地としての天橋立考

:水際の保養文化に関する史的国際研究 2013-


〔京都府立大学地域貢献型特別研究(ACTR),2013年度採択研究課題/研究代表:松田法子〕/古代からナドコロ・名所として知られる天橋立を素材に、海水浴場としての展開など近代の諸相を探る。/本研究を通じて、/近代日本における海浜保養地・海水浴場の展開とナドコロ・名所など近世までに累積された伝統的な場所のイメージとの関係/近現代における観光地としての天橋立の展開/天橋立の観光地化にかんする地域共同体・地域空間側の働きかけや変容/などについて明らかにする。/さらに天橋立を含む近代日本の海浜・温泉保養地についてその特徴や性格の位置づけをはかるべく、日本中世史・同近世史・東北アジア史・近現代ドイツ史・古代ギリシャ-小アジア史・歴史地理などを専門とする6名の共同研究者によるアジアおよびヨーロッパの事例研究とも連動した横断的考察を進める。/現在予定している対象の範囲と連携関係は以下のとおりである。/ 

2013年度ミニシンポジウム

保養地としての天橋立考 ―保養・海水浴・観光の歴史から考える天橋立


開催日:2014年3月5日〔水〕19:30-21:00/会場:京都府宮津市字文珠 文珠公会堂/開催主旨:/天橋立は古代からナドコロや名所として知られてきました。/しかし海水浴場としての展開など、現在の橋立に直接つながる近代の諸相については、実はまだほとんど明らかにされていません。/今回は本プロジェクトの1年目の成果報告として、文殊地区においてミニシンポジウムを開催します。/天橋立の海水浴場やそれに伴う保養・観光が、全国からみればどのような歴史的位置付けとなるのか、/また、そもそも日本において海水浴・海水浴場はどのようにして誕生・隆盛したのか(松田報告)、/近代に橋立のイメージはどのように表象され、伝えられたのか(宮下・上杉報告)、/近代以前、橋立・宮津への伝統的な旅の形態と、それを支える近世地域社会はどのような構造であったのか(藤本報告)、/さらに、日本への海水浴導入にも直接関わる近代ドイ