#05 千松信也(猟師)

Lecture Series 2016

2016.07.30 Sat 14:00-16:30
Lecture けもの道のあるきかた
Session 山の把握法/人・動物・植物のテリトリー

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Profile

千松信也(せんまつ・しんや)
1974年生まれ。兵庫県出身、京都市在住。猟師。
京都大学文学部在籍中の2001年に甲種狩猟免許(現わな・網猟免許)を取得。 伝統的なくくりわな、無双網などの技術を先輩猟師から引き継ぎ、運送業のかたわら自らが食べるための猟を行っている。鉄砲は持たない。
著書に『ぼくは猟師になった』(リトルモア,2008年)、『けもの道の歩き方 猟師が見つめる日本の自然』(リトルモア,2015年)。

レクチャー主旨

猟のシーズンになると、毎日、わなを仕掛けたけもの道を歩 く。獲物がかかっていないことが大半だが、前日にはなかった新しい足跡や糞、泥跡などを確認しながら、昨夜のイノシシの行動をイメージする。そのイメージ が固まってくると、わなの近くの葉っぱが1枚裏返っているのも、「ああ、あいつがわなを警戒してちょっと前脚を強めに踏ん張ったのか」とその様子が頭に浮 かぶようになる。そして、そのイメージが出来上がる頃にだいたい獲物がわなにかかる。
 残された糞を見れば、その個体が何を食べているのかも分かる。餌場まで見に行かなくても、イノシシたちの行動エリアが推測できる。
「ああ、今年はどんぐりが豊作だ」「エサがないので民家の裏の柿を狙っている」
 僕が猟を始めた15年前と比べて、シカなんかは個体数が増え、これまで食べてこなかった山野草や樹皮も食べるようになった。イノシシも5年ほど前のナラ 枯れの大流行の時には随分と行動パターンが変わった。人間が見放した森のなかで野生動物はしたたかにその変化に対応して暮らしている。木を植えるわけでも 獲物を繁殖させるわけでもない猟師は、人為的であれ自然なものであれ森の変化には獲物たちを見習って対応していくだけだ。
 「シカが山野草を食べつくし、森の生態系がダメージを受けている」
ある側面から見たら間違いなく正しい言葉だが、大型草食動物であるシカが常緑針葉樹が大半を占める日本の山で暮らすこと自体に無理があるとも言える。かつて草地だった平野部を人間が占領している以上、シカたちは森のなかでわずかな青草を必死であさるしかない。
 「他にもいっぱい山はあるんだから、ウチの山からはシカとイノシシを全滅させてくれ」
獣害に苦しむある農家の方から最近聞かされた言葉。
 都市住民が「動物との共生」を好む一方で、山間部では住民と野生動物との軋轢が増している。ある意味、野生動物と人間の両方の立場を理解できるのが猟師である。果たして、猟師は人と野生動物のあいだの良き仲介者になりうるのだろうか。
(千松信也)


主催:松田研究室
申し込み・問い合わせ:info@matsuda-lab.net
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